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またひとつの人生を見送った。

成功者の奥さん。
半世紀ほど前、四国の田舎をあとにしたときには、
夜行列車のなかで長男を膝枕し、
もしかすると、
その長男より先に生まれていた女の子の
位牌も胸にいだいていたかもしれない。

つれあいが出身大学の理事長になり、
いまのアフリカ出身のマラソン留学生の
先駆けと言ってもいいかもしれないが、
つれてきた留学生がスポーツの試合で「つば吐き事件」を起こし、
謝罪のコメントが新聞ダネになったりしても、
静かな物腰を保っていた。

最後に会ったときには、
そのつれあいが、貧しく満たされぬ思いを胸にいだいていたころに、
池畔の小さな家の窓から
月夜を映した銀波金波を表現した文章を
「あれはすごい」と評価したら、
うれしそうに微笑みながら、
どこか不安そうにも見える表情でこちらを見上げていた。

最後は数年、認知の難しい歳月を過ごしたという。

その歳月を、そばについて見届けた
かつての膝枕の少年が、告別式では白い頭であいさつに立った。

思うにまかせぬ介護の日々にたまったものと
集まった人たちに伝えたいものが
淡々とした、生真面目そうな言葉の端々からにじんできた。

そして、その言葉の最後に出てきたのが、
夜行列車で上京のおりには位牌になっていたはずの、その姉のこと。

おぼれていた川から「つれあい」が抱いて家までつれ帰ったときのことも、
わたしはあいさつに立った白い頭の元少年の口から聞いていた。
膝枕をしてもらっての、東京までの夜行列車のなかのことも。

はたから見れば「成功者」に見えた人の家族の時間も、
してみれば、終始、溺死した少女の記憶をいだいての時間だったのかもしれない、
とあらためて思った。

そういえば、「銀波金波」の文章のなかにも、
その少女の記憶を胸にいだきながらの
四国遍路の道行きが語られていた。

わが家を背負うはずだった人たち。
井桁に五三の桐の家紋が
死者とその喪主が生きてきた時間を
ほとんど知らないことながら近しいものに感じさせてくれた。

血というのはそういうものかもしれない。


# by pivot_weston | 2011-02-10 22:46 | ブログ

星に願いを

ロマンチックな話ではない。

宅配ピザ屋の前で
持ち帰りのピザが焼き上がるのを待っているうちに
夜空を見上げてオリオン座の星が目にはいると、
ふと、このフレーズが頭に浮かんできた。

なるほどな、と思う。

星はいつも変わらない。
地球という星の上に生まれたちっちゃなちっちゃな存在のまわりで
なにが変わっても、
その視覚を通して認識される星は変わらない。

わたしたちは生まれてきては消えていく泡沫的な存在だけど、
その泡沫的な存在持続期間のあいだにも
たしかな土台や座標軸を欲するものなのかもしれない。

視覚は宇宙の整合性を
ちっぽけな生きものの世界にも反映させるために与えられている機能なのだろうか。

変わらない星はいつもその座標軸になりうる。

「星に願いを」というのは、
わたしたちが根底にもっている基本姿勢のひとつなのかもしれない。

そういや、『星に願いを』の歌は
映画『ピノキオ』のなかでうたわれた歌らしい。

なるほどな。


# by pivot_weston | 2011-01-17 06:49 | ブログ

週刊誌は、なつかしい。

また岩瀬さんの「かい人21面相」を読むために
『週刊現代』を買った。

当然のことだろうが、よく調べてある。
ここまで過去のある時間をよみがえらせるには、
さぞかし大量の取材が必要だっただろうと思う。

興味深く、またなつかしい。

岩瀬さんの記事に続く特別読み物「日本の黒幕」もそうだ。

児玉さん、小佐野さん、笹川さんなどの顔写真が掲載されている。

わたしも小佐野さんや笹川さんの一面は
遠くから垣間見る機会があった。

みな「貧より出でし人」。
生き抜くための迷わぬ信仰心があり、
その先に表向き「権力者」と呼ばれる人たちがいたのか。

今日の「権力者」と呼ばれる人たちの立ち居振る舞いにも
そうした時代の構造の名残があり、
いまの政治状況には、
そうしたものと新しいものとの葛藤という一面もある。


心地よい川

足を入れたら心地よい川がある。

でも、そのままいつまでもじっとしていられる川はない。

そして、動いたら、川の水の感触も変わってくる。

理想の川の水の感触を求めて動きまわる人もいる。
どこの川でもあまりかまわずにひたっている人もいる。
場合によっては、自分を川に一体化させ、
川を自分のことのように語る人もいる。

でも、だれにとっても、あくまで自分は自分。
川と一体化することはなく、
それは滅びの瞬間に明らかになる。

じっとしていられることを称揚してよいのか。
じっとしていられないことを称揚してよいのか。

そんなの、それぞれの勝手であり、
あとに残った行跡が人生となる。

なにもよけいなことを考えてバタバタすることはない。


# by pivot_weston | 2011-01-13 07:02 | ブログ

変化の波

現場では、変化の波が壁に当たっている。

でも、
われこそは変化の権化と思いこんでいる存在が、
実は壁になっていたり、
こいつこそが壁と思いこまれている存在が、
実はなにより大きな変化のうねりを起こそうとしていたりして、
その様相は複雑だ。

ちょっと大げさな比較だが、
フランス革命のころはどうだったのだろう、と
ふと思う。

もちろん、どこのマスコミも
そんな現実を伝えきれていない。
シュレディンガーの猫だ。

また浅墓と怒られるかもしれないが、
やはり、政治の現場でも古典力学的なものの見かたは
もう捨てたほうがよいのかもしれない。


# by pivot_weston | 2011-01-12 07:25 | 政治