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フツーのこととフツーでないこと

 自衛隊を国防軍にしようという話になっているらしい。

 わかりやすい。日本もなにかあったときに武力で対抗する組織を「軍」とすれば、見た目がほかの国と同じになり、考えかたを整理するのも議論をするのも楽になる。かつて小沢さんが唱えたという「フツーの国」に近づくワンステップなのかもしれない。

 でも、それでは「フツーでない状態」を「フツーの状態」に変えるのは「楽」一方、いいことだらけかというと、そうでもないような気がする。たいてい、多くの人たちの意見を総合してできあがっているものには、それなりのわけがある。

「氷山の一角」という表現がある。海の上にちょこんと突き出ている氷山も、実はもっとはるかに大きな氷のかたまりの一部で、海面の下にその氷山を海上に現出させるだけの現実が隠れているというこの世の原理の一端を伝える表現だ。その原理でいくと、これまでの自衛隊が世界に例を見ない「フツーでない」組織だったとしたら、この日本の海面下には、そんな異形の氷山を浮かばせるものが隠れていたわけだ。

 ひと口には言えない。昔のように「戦争に行く」こともなく決まった給料をもらえるようになるのはありがたい、というような実利的な理由まで含めると、いろんな理由がこれまでの自衛隊という存在の陰には隠れていたはずだ。でも、なかでも大きかったのは、やはり「過去の体験」ではなかったのか。

 人間は積み木のように単純な図形を組み立ててできている存在ではない。ほんとうは、科学者的な視点からとことん微視的に見ていけば、単純な図形の組み立てなのかもしれないが、日常感覚で見ると、とてもそんなふうには思えない。なんでそんなことをしているのかと思える行動や、なんでそんなふうになるのかと思える状態も、多々見られる。わけがわからない。だから、人間なんじゃん。だから、小説を読もうよ――ということにもなる。

 つまり、「フツーでない状態」を「フツーの状態」に変えてすっきりさせるのは、一面とてもよいことのように思えるが、フツーでない氷山をちょん切ってすっきりした海面にしていこうとするのなら、そのフツーでない氷山を現出させていた海面下の氷のかたまり、つまり「過去の体験」やなにかも消化し、吸収していかなければ、バランスはとれないよ、と思う。

 逆に言えば、海面下の氷のかたまりが時間の経過とともに徐々に融けて、消化され、吸収されたときには、どんなにフツーでない氷山でも、わざわざ「あの氷山をちょん切っちまえ」なんて言わなくても自然と消えるということだ。

 だいたい、いつの時代でも「わかりやすくしよう」「すっきりさせよう」なんていう議論は、長くわけのわからない時代を過ごしてきた末に、過去を知らないか忘れた若い世代から出てくる。そして、重い荷物を背負って生きているわたしたちの営みの流れが途絶され、人間はまた同じ過ちを繰り返すという歴史を紡いでいく。そんなものだと思う。

 わたしも世のなかをすっきりとわかりやすくするのはいいことだと思う。でも、それと同時に、満州で入隊し、シベリア(現実には中央アジア)に抑留された経験をもっていた父の無言の表情も思い出す。その経験から、語ってもらえることはいっぱいあったと思う。でも、実際に息子に語り伝えたのは、「満州では、タオルをぶるんぶるんとふりまわしたら棒みたいにこちんこちんになる」「バイカル湖の海鳴りはなあ……」「カラガンダでは、コサックのほうがひどかった。白系は案外やさしかった」ということくらいで、あとは半ばほころんでいるように見えた口もとや、遠くを見る目でしか自分の体験を伝えようとしなかった。

 ああして言葉にすることのできないものを体験してきた人たちが、積極的にせよ、消極的にせよ、長く保持してきた体制。それを能天気に「これが自然だから自然にする」と言う苦労知らずの坊やたちの言うことに従って変えてもいいものか、という疑問は感じる。国会議員の秘書をしていたときも、40歳前後のある若手議員が、靖国参拝の話をしていたときに「わたしは(民主党の議員だから反対派がいっぱいいると思われるかもしれないが)賛成派、というか、すべきやと思っているほうですからね」とうれしそうに言い、つい、内心、坊や、そういう単純なことではないんだよ、と思ったのを覚えている。

 子どもに苦労させないという、かつての焼け跡・買い出し時代に絶対的に肯定された前近代的思考(中国の多くの人はいままさにこの思考のなかにいる)がまだ定着して盲目的に受け継がれているせいか、いまの若い人たちを見ていると、わかりやすくなってすっきりしてきているのはいいことなのだろうが、かつての時代に沈黙のなかで受け継いでいた「理不尽」「不条理」がごっそり欠落しているようにも感じる。国を大切にするのは国民を大切にすること。国民を大切にするのは国民がかかえているものすべてをトータルで受け継いでいくことだとも思う。わかりやすいが、その精神に欠けてきて、なかが空洞のような若い人たちがシステマティックに武力を保持し、行使するのだとしたら、もう少しよく考えてからにしたほうがよいのではないかとも思う。

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by pivot_weston | 2012-11-24 12:25

久しぶりの広場

初夏の陽気の新宿御苑。
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日本は、
ヨーロッパほど紫外線が不足しているようには思えないのに、
裸で寝そべるおじさんたちがちらほらいたが、
たまには広い空間を前にするのもいいものだ。

だけど、「初夏の陽気」の紫外線はヘビー、ヘビー。
ふだん部屋にこもりきりのもやしおじさんは疲れた、疲れた。

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by pivot_weston | 2010-05-22 18:18