ひやり

仕事先の会社で本をつくっている。
7冊目だ。

たいへんな財政ピンチにあったときにヘルプに呼ばれたので、
少しでも売上増につながればと思い、
仲間の出版会社社長・国井さんに無理を言い、
仕事をもらっている。

わたし個人は、もう100冊以上の本づくりに関係してきた。
本づくりの楽しさはよくわかっている。
単に売上増だけでなく、
マニュアルづくりのルーチンワークに埋没している若い人たちの
やる気増にもつながればとの思いもある。

ただ、わたしはコストのかかる職人だ。
会社としては、利益の少ない仕事にあまり多くの時間を費やしてほしくない。
いくらマニュアルをつくっているとはいえ、
一般書籍の制作にかけては素人の集団に本がつくれるのかという不安はあるが、
経費の重荷になるのもいやなので、言われたとおり、
ちらちらと翻訳原稿に目を通す程度にとどめている。

そんな7冊目の原稿が本の体裁に組み上げられ、
紙にプリントアウトされたものがDTPセクションのデスクにひろげられていた。

ん!? なにかでかいな。

そう思ったが、彼らも印刷物制作のプロだ。
抜かりはないだろうと思い、いったんは「ふぅん」ですますことにした。
でも、やはり、なにか気になる。そこで、

「これ、拡大?」

と、おずおずと尋ねてみた。

いや、違う、実寸――との返事。
おいおい、待てよ、と思い、にわかにどきどきしながら寸法を測ってみると、
アメリカで出版された原書のサイズに組まれている。

これじゃだめだよ、ほら、このサイズにしなきゃ、と言って、
これまでに制作してきた翻訳書6冊のうちの1冊をもってきて見せたが、
「えー、そうなんですか、じゃ、すぐに組み直します」
とでもいう返事が返ってくるのかと思いきや、

「そんなこと、最初に言ってくれなきゃ困ります。
これから組み直すとしたら、たいへんな時間とお金がかかります」

ときた。
ああ、そうくるか、と思い、
確かに最初にはっきりとサイズを指示していなかったのは事実なので、
納期が迫っていることも考え、もうこうなりゃ減給覚悟だな、と腹をくくり、
「申し訳ない」「申し訳ない」と謝って組み直してもらうことにしたが、
なにかすっきりしない。

わたしを育ててくれた出版の世界は指示待ちの世界ではなかった。
すでにできあがっている翻訳書が6冊もあり、
それと同じものをつくれ、と言われたら、
まずはなんの意味もなくても、それをためつすがめつながめ、
第一に、本の版型やらなにかを確認する人たちの世界だった。

自分たちの会社でつくった本がすでに6冊もあるのに、
1冊もきちんと見てくれていなかったのだな。
そう思うと、さびしかった。

本づくりの世界をマニュアルづくりの世界と同一視し、
謙虚に確認しようとしていなかった姿勢も、
本づくりの世界で生きてきた人間にとっては、さびしかった。

言われたことだけをして、給料をもらえば、あとは知らん――
そんな姿勢が伝わってくるのも、さびしかった。

起きたことは起きたこととして、論理的に原因をつめ、
はっきりと指示をしていなかったわたしが責任をとるのはしかたない。

でも、相手のことを考え、相手の集団のことも考え、
いろいろ配慮をしていても、
相手のほうからわたしが背後にかかえる世界への敬意や配慮がないのがわかると、
やはりさびしい。

片思いには慣れっこになっているが、
やはりそんな思いは伝えておきたい。
仕事にいちばん大切なのは、
その仕事の先や背後にいる人たちへの愛情だと思う。

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by pivot_weston | 2008-12-13 09:45 | ブログ