ロブはいいやつだ

「寝ても覚めても本の虫」でちらりと出てきたので、
ロブ・カントナーのことも少し紹介しておこう。

アメリカの「直木賞」に相当する賞をとっている
腕の確かな作家だ。
ユーモアあふれる作家でもあり、
探偵クライム小説を書いていても、
彼の書く文は1行たりともユーモアを欠くことはない。

わたしは幸運にして(彼にとっては悲運だったかもしれないが)
彼の作品で出版翻訳者としてデビューさせてもらい、
その後も、短編も含めて彼の4つの作品を訳させてもらった。

だから、インターネットが普及してきたころ、
彼がサイトを持っていることを知り、
メールを出して、以来、やりとりが始まった。

ある日、メーラーを開くと、
Deannaという差出人からのメールが届いていた。

「わたしは亡命したナイジェリアの前大統領の娘。
隠し金があるから、預かってくれたらお礼をあげる」
などといういたずらメールが飛び交っていた時期だ。

だから、不審に思ったが、
クンクンしてもどうも怪しげなにおいが漂ってこないので、
開いてみると、
「わたし、今度ロブと結婚するの」
とあった。

ロブからは、事前にそういう話はまったくなかった。
ロブと結婚する喜びを誰かに伝えたかったディアンナさんが
どうやらロブに内緒でこの日本の翻訳者に知らせてきたらしかった。

うれしかった。

ロブの世界のなかで、自分が
彼のフィアンセが結婚する喜びを伝えたくなる位置にいたことが
うれしかった。

まだ妻の闘病中だった。

ロブは、メールのなかで必ず妻のことを気遣ってくれた。
そして、妻が亡くなったときも、その後も、
揺れ動くわたしの内面を、
「そうか、それはよかった。おまえが元気にしているのがいちばんだ」
と、探偵小説の書き手らしくそれとなく受け止めてくれた。

でも、そこはロブだ。
彼の全身に巣食うユーモアの虫が黙っちゃいない。
大勢の人向けの小説には書けない難解な小話集を必ずつけてよこす。

そんな彼も、作品が地味なのが災いしてか、
最近はヒット作が出ていない。

でも、デトロイト郊外のインクスターの牧場に住み、
品質保証関係の仕事をしながら、自分の作品を書きつづけ、
インターネット上の自分のサイトで発表している。

少し前にも、
日本ではわたしが担当した探偵ベン・パーキンズ・シリーズの
新しいショート・ストーリーができたと知らせてくれた。

みなさんのなかにも、
ちょいと斜にかまえたユーモア満点の探偵のお話を読んでみよう
と思うかたがいらっしゃったら、ぜひ一度、
彼のサイトを訪問していただきたい。

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