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素朴がいちばん

 このところ、オバマネタが多くなっているが、今日も一席。

 先のG8サミットのとき、北アイルランドの学校かどこかで演説をしている最中だったか、聴いている人からなにかひとこと言われたオバマさんがちょっと悲しそうに表情を曇らせてこう言ったことがあった。「ああ、ミシェルだろう。そうなんだ、彼女はわたしより演説がうまいからね」と。

 そう、先日のジョージタウン大学での気候変動対策演説にかぎらず、2月の一般教書演説などでも、力感あふれる演説で聴衆の気持ちをどんどん高揚させて引っ張り込んでいく名演説家のオバマさんでもかなわない力が、ミシェルさんの演説にはある(別に旦那さんのように力こぶを入れるわけではないので、「演説」とは言わず、「お話」と言ったほうがいいかもしれないが)。

 前に、シカゴで話をするのを聴いたときも、いやあ、伝わるものがある話をする人だな、と感心させられた(なるほど、確かに、うわさどおり旦那より一枚上かもしれない、とも思わされたが)。

 そんなミシェルさんが、旦那さんや娘さんたちといっしょに訪問していたセネガルの首都ダカールでもあいさつをしていて、またその言葉の力に引き込まれてしまった。

 なんだろう。やはり、言葉は素直で素朴なのがいちばんということか。旦那さんの芸風の「力感」を基準にすれば、遠い昔のドイツにもひとり極端なのがいたが、あんなのは劣等感にまみれた虚勢と姑息な作為のかたまりで、いくらがなり立てたところで、ただの雑音に過ぎない。北アイルランドでオバマさんの顔をよぎった「ちょっと悲しそう」な表情も、奥さんの話のもつ力の表れと言ってもいいかもしれない(そこにまた、元亭主族の一員としては、共感をおぼえてしまうのだけど)。

 もちろん、原稿を見ている。その原稿はスピーチライターが書いたものかもしれない。でも、旦那さんもいつもスピーチライターが書いたプリントアウトの原稿に自分で手書きで直しを入れているように、奥さんも同じようにしているだろうし、かりに入れていないにしても、口にする言葉は台本を読むだけでは力をもたない。自分のなかで消化できていない言葉は、聴く人には伝わらない。

 ちょっと大げさかもしれないが、ダカールでのミシェルさんのあいさつを聴いていたときには、もしかするとこの演説にはいまの世界がすべて語られているかもしれないな、とすら思えた。アメリカでも、アフリカでも、アラブでも、もしかするとイランやアフガニスタンでも、アジアでも、ラテンアメリカでも、多くの人の内にひそむ気持ちがあのあいさつに語られていたかもしれない。

「素直で素朴」は、つまりはすべての人が根源に共有するものだけを取り出すという姿勢でもあるだろうから。

 先の米中首脳会談のときに、中国はミシェルさんが来ないのを不満に思ったらしいが、ダカールやそこに滞在中にオバマ夫婦が訪れたゴレ島の歴史を理解したうえで、素直に、素朴に語るミシェルさんの話を聞けば、人にはそれぞれいちばん大切にしたいものがあるということを理解してあげたい気持ちになるかもしれない。日本で人気さえ集めればすべてがうまくいくように思っている政治家も、なぜ外国が自分たちを歓迎しないのかを理解するうえでは、格好の材料かもしれない。時代を否定し、他国を否定し、同盟国アメリカに連帯を求めても、そこにいるのはかつての冷戦時代のアメリカではなく、なにより世界の合衆国として時代の最先端にあって新しい社会の枠組みをつくり出そうとしている政権なのだから。早く目をさましたほうがいい。


by pivot_weston | 2013-06-30 10:58 | ブログ