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第100号

 週刊メールマガジン『米国政府情報』第100号は、本日21:30に配送いたします。

 2年前のJuly 4th、つまり米国の独立記念日(日本時間7月5日)に第1号を出したときには、思い切ってこんなことを始めてしまったけど、さて、いつまで続くものやらという気持ちがわたしのなかにもありました。だから、当初は、米国の政治やホワイトハウスがらみの小話を集めてネタが切れないようにしなきゃ、などと考えて、よけいな準備もしていたのですが、始めてみると、なんのことはない、あの米国の政治のセンターから公式に発表される情報を追いかけていたら、それだけで手が一杯にも二杯にもなり、小話を盛り込んだりする時間などあるはずもないのはあたりまえであり、いまでは第1号の冒頭に紹介したホワイトハウスの有名な小話を思い出すと、なにやらなつかしさを覚えてしまいますが、ともあれ、100×7日=700日間のホワイトハウスの公式発表情報は漏らさずこの100号のなかに収めてまいりました(ホワイトハウスは、ときどきあとでアーカイヴを編集しているので、現在のアーカイヴと比較すると、アーカイヴにあるのにない情報、アーカイヴにないのにある情報も多少はあると思いますが)。

 このメルマガの発刊を思い立ったとき、昔お世話になった英語情報誌の会社の社長に相談したら、「それにしてもホワイトハウスの情報とはね。そんなもん、誰が読むんだ?」みたいな調子で笑われ、あ、いや、あきれられ、わたし自身も、ん~、やっぱりそうかな、と思ったものですが、発刊を始めて真っ先に気づいたのは、誰よりもわたし自身の仕事にとってとても意味のあることだということでした。英語の翻訳者として、米国のさまざまな情報を日本語に訳す仕事をしていますが、このメルマガの発行を始めてから、仕事で英語を読んでいるときに、あ、これはあのホワイトハウスの動きとのからみだな、とか、あ、これはホワイトハウスも言っていたことだな、などということがわかり、自分の仕事の中身に厚みが出てきたような気がします(ふつうに翻訳の仕事だけをしていると、なかなかそれ以外に情報収集の時間をとるのは難しいのですが、自分の生活のなかにこのメルマガ作成の時間の枠ができ、それを崩さずに守っていかなければならないという義務が生じたことによって、ずいぶん自分のプラスにすることができたと思います)。

 それと、もうひとつよかったのは(日本国民としては残念なことでもあるのですが)、日本の政府やマスコミと独立した自分の視点が持てるようになったことです。とくに現在の政権が発足してから顕著になったことですが、自国政府が発表していることが現実を踏まえたものではないということが明確に見えるようになりました。とくに顕著だったのは政権発足直後で、ぎくしゃくしていた米国との関係をしっかりと建て直して――というようなことがさかんに喧伝されていましたが、こちらからホワイトハウスの発表情報をのぞき見ているかぎり、そうかな?――と首をひねりたくなるところが多々ありました。前政権のころから、中国や韓国とホワイトハウスの関係の濃密さはいやというほど伝わってきていて、日本はこんなことでいいのかな、と思っていたのですが、それでも菅さんや野田さんとはオバマさんもときどき連絡をとっていて、去年11月の東アジアサミットのときには、連続して行われた日米、米中の首脳会談で、日米のほうにはクリントン国務長官を同席させても、米中のほうには同席させないというひとつのシグナルとも配慮ともとれるものが読み取れたのですが、日本の政権交代後は、表の宣伝の声が高まる一方で、ホワイトハウスの発表情報のなかにそれに呼応する動きを読み取ることができなくなりました。むしろ、野田政権のころより発表情報は貧弱になる一方だったので、最初はまた自民党が昔ながらのやりかたで、見えないところでよくわからない絆を結び直しているだけで、日米の連携は安倍さんの言うとおり強化されているのかなと思っていたのですが、半年たった最近の動きを見ていると、やはりホワイトハウスは公式発表どおりの動きを見せていたのだな、ということがはっきりとわかってきました。

 このブログには何度も書いているように、わたしは古い友人が国会議員になったので、半年ほど民主党の国会議員の秘書を経験し(ま、いろんな人とつきあっている国会議員でもあきれるほどのアメーバ人間だから、半年でクビになったのでしょうが)、その経験を生かせることはないかと考えたのも、このメルマガ発刊の動機のひとつだったのですが、別に民主党の支持者というわけではありません。ただ、昔の自民党のような政治を続けていたら、間違いなくこの国は世界から取り残されていくということは確信しています。だから、いまの自民政権も、発足当時に見せていた虚偽の政治は早くやめて、大急ぎで、透明で開かれた政治へ切り替えていったほうがいいと思います。昔は、国内で適当なことを言っていたら、政府やマスコミの情報くらいしか情報のなかった国民は、それに従って判断をするしかありませんでした。でも、いまは(たとえ民心を落ち着かせるという善意にもとづく動機からであっても)表面だけを繕っても、国民にはすべて見えてしまいます。国民ひとりひとりが世界の情報を現場で把握している時代です(先日も、アルジャジーラの番組で、東京にいる日本人が世界の人たちとつながって、英語で議論をしているのを見て、おお、すごい人がいっぱいいるんだな、と感心させられましたが)。フレッシュなスタッフが大勢躍動しているのが見えるオバマ政権のように、早くこの国の政治にも新しい時代に対応した姿に生まれ変わってもらいたいですね。

 オバマ政権の意味を考えさせられたのも、このメルマガ発刊の成果と言えるでしょう。最初はわたしもオバマさんのことをまったく知りませんでした。まあ、黒人初の米国大統領というのはすごいことだとは思っていました。わたしくらいの年代の人は、幼いころになんの疑いもなく、白人ばかりのテレビドラマを受け入れて育ってきたはずです。だから、小学校の高学年くらいになって高まってきた米国の公民権運動を知ったときには、日本の田舎に住んでいたわたしもショックを受けました。ネットにもいっぱい出ているみたいですが、標準的には「だるまさんがころんだ」というらしい遊びでも平気で「インド人の××坊」という言葉を嬉々として口にしていた自分を考えさせられました。しかし、もうオリンピックでもメジャーリーグでも映画でも、肌の色を気にするほうがおかしいような時代になっています。だから、その「黒人初の米国大統領」というところはそれほど意識せずにこのメルマガの発行を始めたのですが、発行しながら、ホワイトハウスの発表情報を追いかけているうちに、いや、そうじゃない、肌の色に限らず、アンフェアなところはまだまだこの世のなかにたくさんあって、それを、制度やなにかを通して少しでもよりフェアな状態にするのが行政や立法の役目なのだから、まだまだ決して有利とは言えないアイデンティティを背負ったオバマさんが動くたびに、たとえご本人のオバマさんはなにも考えていなくても、世のなかは変わっていかざるをえないのだということに気づかされました。

 これも何度か書いてきたことですが、オバマさんが俗に言う「いい人」かどうかなんてまったく知らないし、知りたいとも思いません。実際に日本の国会で大勢の国会議員の実態をこの目で見てきましたが、なかには、これはいくらなんでも、と思う人はいても、自分自身がたいして人に誇れるような内面を持っていないわけですから、政治家にそういうものを求める気はありません。ただ、政治家本人の内面にはいろんなところがあっても、世のなかトータルの現実として、上記のような現実を(100歩とは言わないけど)1歩でも2歩でも、よりよい方向へ進めるのが政治家という職業の役割でしょうから、それさえやってくれればいい政治家と言えるでしょう。で、いま、(人格は闇のなかだけど)そういう課題にチャレンジしているオバマさんを、大勢の若いスタッフが支え、自分たちの思う「よりよい世のなか」をめざしているのが伝わってきます(ホワイトハウスの公式発表情報なんて、そのほとんどはそういうスタッフの作品ですから)。日本の国会にも、そういう若い人たちが大勢集まってきていましたが、彼らの問題点は「いい子」すぎるところだと思います。議員を「先生」「先生」と言って持ち上げるのは、たとえ長年のしきたりだとしても、それにチャレンジするのが若い人の務めだと思います。政治家も人間ですから、ひとりで一度の人生のあいだに知りうる情報の量なんて知れています。つまり、まわりの人が持ち上げて新しい情報をもたらさなければ、その政治家はそれだけ貴重な時間を無駄にして、自己満足の世界にいる世間知らずで終わってしまうということです。世俗の縛りというのはなかなか厳しいものだから難しいでしょうが、日本の国会にも、若い人がどんどん「先生」に自分の意見を言い、それだけ「先生」の知識度を高めるような風土が浸透してきてほしいと思います。世俗の縛りは厳しいけど、世俗の縛りに身を委ねる国は、いまの世界では確実にアウトオブデートになっていきます。

 オバマ政権を見ていると、一市民の目から見ると、ひどいところがいっぱいあります。先日、批判発言があったイスラム圏では、大勢の人を殺しています。一市民の目で見れば、明らかに「悪党」でしょう。でも、それがこれまでの歴史を踏まえて、いまのわたしたちの目の前にある現実。たとえ、いまわたしたちがいるところが石段のマイナス100段目だとしても、だからといって、頭のなかでだけ幻想のプラス1段目やプラス100段目を求めて、そこへ行った気になっても、実質はなにも変わりません。実質を変えることができるのは、たとえそこがマイナス100段目だとしても、1段上がってマイナス99段目にのぼることしかありません。そして、相変わらずそこもマイナスだから、なにをしても多くの批判が飛んでくるでしょう。でも、それを恐れていたら、世のなかの実質はいつまでたってもなにも変えられません。そういうことを理解したうえで、先日の3連発スキャンダルのときにも、合理的に現状を分析して「1段上」をめざそうとしているホワイトハウスの若いスタッフたちの姿勢がわかったことも、このメルマガ発刊の成果と言えると思います。

 あとは、なんとかわたしが「怠け心」に負けないようにするだけです。通常の仕事が終わったあとでのんびりとテレビを見ていたりすると、とたんにこのメルマガの作成作業が重圧となってのしかかってくるので、どうにかその怠け心はコントロールして、せめてオバマ政権の最後までは発行を続けていきたいと思っています。