人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ラフティング人生

 まわりにも同じような人がいたみたいだが、このところずっとすっきりしない状態が続いていた。体も不調だったが、お正月から続いていたやたらに忙しい毎日が一段落すると、さて、これからどうなるのか、どうしていったらいいのか――という迷いも加わり、もやもや、もやもや。でも、自営業はコロラド川の川下り、ラフティングみたいなもの。目の前にグランドキャニオンの断崖が立ちはだかり、水面が波立ってスプラッシュしているときはバランスをとるのに夢中で、一転してただ流れにまかせておけばよい平らな川面に出ると、ついつい気持ちが張りをなくして虚無感や虚脱感などに忍び込まれたりするものだが、せっかくのんびりできるときにまで荒れた川面を求めていたのではばかばかしいから、そういうときはボートの上でお日さまの恵みを体中に浴びながらおへそを出して昼寝でもしていたほうがいい……と思っていたら、お、ほら、もう次の断崖絶壁が見えてきて、またゴボゴボと川面が泡立ちはじめている。いいね、自営業は。若い人も、いつまでもあなたまかせに4月になったらスーツに着替えて生きかたを変えたりせずに、一本の道を生きていったらいいのに(経験のない人を雇って研修を受けさせるという日本の新卒一括採用システムは経済的にきわめて無駄が多いシステムだと思う)。

 というところで(なんの関係もないが)最近注目しているのが女子プロ野球。あれはすごい。テレビで解説していた吉村禎章さんもレベルの高さに驚いていた。とくにサウスディオーネというチームでショートを守っている厚ヶ瀬という選手の守備はいい。

 高校を卒業し、大学進学が決まり、さて、やることがなくなったなと思っていた時期に、友だちとぷらぷらと春の高校野球の県大会を見に行ったことがあるが、そのときにちょうど、ときどき甲子園に出ていた志度商業という学校の試合があって、試合が始まるときに、小柄な選手がショートのポジションについた。おゝ、あの子、ちっちゃいなあ、と思いながら見ていたら、プレーボール前の送球練習で、一塁手がころがした球をその子が一塁に投げ返した。あ、山なり。つい、自分がショートを守ったときに、一塁まで投げるのをまるで遠投みたいに感じたときの、その距離感を思い出した。と思ったら、あら、その子が山なりに放ったボールが一塁手の手前で地面につきそうになってから、グーンと伸びて一塁手のミットでいい音を立てた。

「えっ、いまのなに!?」

 いっしょにいた友だちに問いかけても、その友だちは野球をやっていたわけでも、好きなわけでもないので、春のぽかぽか陽気のなかでぽかぽかしている。代わって、スタンドの近くの席にいた男の人ふたりづれの会話が聞こえてきた。

「おい、あれがクマノらしいぞ」
「1年生か。春の大会に出てもええのか?」

 そんな会話。それで、「いまのなに!?」と思った球の秘密がわかった。注目の選手なのだ。その男の人たちはうちの近所の人だったのか、わたしが小学生のころから地域のソフトボール大会や野球大会で会っていた同い年のSくんの名前を出し、「あのSものう、あと5cm身長があったら、あのクマノみたいにプロに行けるのに」と、その、わたしが最初に「ちっちゃいなあ」と思った高校1年生のプロ入りを予想、というか、決めてかかっていた。のちに、中央大学に進み、社会人の日本楽器時代にはロサンゼルスオリンピックの代表チームのキャプテンとして金メダルをとり、その後、入団した阪急ブレーブスでも新人王をとった熊野輝光選手の高校時代だ。

 先の、女子プロ野球の厚ヶ瀬選手の一塁への送球を見たとき、その、熊野選手が高校時代に見せた、あの送球を思い出した。捕球も、もしかするといま甲子園に出てくる遊撃手の男の子よりしっかりとかたちができているかもしれない。

 その女子プロ野球が20日と21日に神宮球場で試合をやるという。スーパーバイザーもかつての大スター、太田幸司さん。なんとなく、もやもや、ではなく、うずうずする話ではある。

 男の野球は、どういうわけかおもしろくなくなった。先の高校野球でも、ひとりの将来有望な男の子に800球近い球を投げさせていた監督がいたけど、太田幸司さんといういい例もあるのに、いつまでもあんなことをしているからだろう。野球の「球を投げる」という行為は、ずっと野球を続けている専門家のあいだで議論しているからよくわからないのだろうが、明らかに日常的な行為ではなく、腕のなかにたいへんな血流を起こす異常な行為。それを短期間のあいだに未成年の男の子に800回近くもさせる指導者。高校生のチームでは、監督も高校生にするというルールをつくればいい。もう日本も兵隊さんばかりをつくればいい時代は終わっている。むしろ、いまはいいマネジャーがたくさん求められる時代。高校野球の監督を高校生にするのは悪くないと思うのだが(高校生たちの自由奔放な発想を見てみたい)。


by pivot_weston | 2013-04-18 14:51 | ブログ