人気ブログランキング | 話題のタグを見る

プレインヴィルUSA

 ひょんなことから思い出した。

 ひところ、「お好きな本は?」と訊かれると、決まってこの本の名前を答えていた。

 1987年世界思想社刊『プレインヴィルUSA――1940年のアメリカ農村生活誌』(J.ウエスト著、増田光吉訳)。

 地味な本。読む人によっては、こんな本、誰が読むのか?――と思われそうな本。

 でも、きめ細かく、驚くほどの情報がちりばめられていた。アメリカの農村のことを、家の軒先まで描写しているような本。

 インターネットの普及した現代では、もうああいう情報も「きめ細かい」情報の範疇には入らなくなり、さらに細かい情報が、わざわざ本を買って、そのページに並んでいる活字を順に追ったりしなくても、簡単に、また無数に得られるようになっているのかもしれない。

 でも、あの本がほんとうに好きだった理由は、その情報の量や細かさだけにあったのではなく、そういう、あの当時は細かかったけど、いまでは細かいとは言えなくなっているかもしれない情報が、こちらの内面にぴたっとフィットしてくる言葉、つまり、素朴な日本語でていねいに表現されていたところにあった。社会学の本だけど、読んでいると、自分ものどかなその農村にいて、日に照らされた乾いた土のにおいをかいでいるような気分にとらわれるほど、ていねいに、ていねいに描かれていた。だから、情報の量や細かさだけなら、もうとっくにOut-of-dateなものと言えるかもしれないけど、トータルの価値で考えると、もういまの時代にはああいう本はできないだろうな、とも思える、貴重な本だった。


by pivot_weston | 2012-10-15 13:03 | ブログ