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ジーコのイラク

 ジーコって、おもしろい。

 あれだけの世界の名選手で、しかもブラジルで大臣にまでなっていたのに、日本の住友金属のサッカーチームにはいったのもそうだけど、今度はまた、イラクなんていう、まだ自爆テロの続く国のサッカーチームの監督を引き受けている。

 フセイン体制崩壊までのイラクのサッカーチームが強かったのは、北朝鮮と同じような事情が背景にあったからだと言われている。ひところは、日本がサッカーでイラクやイランと当たったら、勝ち目はないように思えていた時期があったような記憶がある。

 でも、いまのイラクには、選手が恐怖心から目の色を変えなければならないような事情はないのではあるまいか。それに、いまのイラク代表は、スンニ、シーア、クルドの混成チームだとも聞く。だとしたら、もちろん日本もワールドカップの出場権をかけて戦うわけだから表立って応援する必要なんてないだろうが、スポーツなのだから、爆弾で吹き飛んだガレキのなかから出てくるような状況にありながら、恐怖の動機づけがなくても高い能力を発揮しているチームに一定の敬意を払うような報道があってもいい。スポーツが語れるものは、競技以外にもたくさんある。

 高校野球の選抜大会にも、恵まれない環境のなかで努力する高校に代表権を与える「21世紀枠」というものがある。ああいう精神が単なる新聞社の営業戦略ではなく、ほんとうにこの国のスポーツ界にあるとしたら、21世紀を迎えるのに先駆けて、20年ほど前に日本を「21世紀枠」に選んでくれたジーコさんがイラクを選んだ真意を掘り下げたり、そのイラクのサッカー選手たちの現状を伝えるような報道があってもいい。相手の選手を高めることが自分たちの選手を高めることにもなる。枠にとらわれるな、いつでも自然な人間であれ――ジーコさんのイマジネーションあふれるプレーを思い出すと、あの人は心のどこかでそう思っているのではあるまいか、と思うことがある。


by pivot_weston | 2012-09-10 09:21 | ブログ