思わぬ夕べ

まさか、だ。

今週入院して膀胱がんの摘出手術を受ける予定の母が、
気分転換のために出かけていた新宿駅のデパートで
はじめて尿中に出血を確認してショックを受け、
あわてて帰宅していた。

「明日の朝ごはんのおにぎりがほしい」という。

だから、夕刻、そのおにぎりを買いに出た。

ぽつぽつと歩く人のいる半住宅街の狭い道だ。

また電信柱の向こうから歩いてくる人たちがいる。

当然、こちらの最初の反応は、
その人たちをよけようとするもの。

だけど、あ、あ、そのなかのおひとりの顔が……。

とっさには「見覚えのある顔」というフレーズすら出てこない。

でも、もうひとりの女の人の顔も……。

だから、とにかく「あ」の声をあげた。

すると、向こうも「あ」。

あ、やっぱり。

固有名詞もなにも出てこないままの認識作業だ。

こういうときには、相手の人と交流してきた環境と
そのときの周囲の環境とのあいだにあまりに大きなずれがあると、
固有名詞というのは遅れて出てくるものなのかもしれない。

ワイン会社ルミエールの木田茂樹社長とその奥様とおふたりのお嬢さんだ。

わたしのなかでは、山梨にいる人。
平河町のルミエールのワインショップ「イン・ヴィーノ・ヴェリタス」にもいる人。
ボルドーや、ブルゴーニュや、シャンパーニュや、スロベニアや、プラハや、
そういうところにもいていい人なのだが、
この西新宿にいるというのはちょっと……。

でも、昔から当地に友だちがいて、
当地でひそかに有名な「しながわ」3兄弟の店のひとつ、
「とりの志な川」が「行きつけ」なのだという。

ふだん当然として受けとめている世界の突然の変化というのは、
そのはずみにパカッと開いた心に新鮮な空気を吹きこみ、
心地よいものだ。

だから、ここはせっかくの偶然をだいじにしないとと思い、
急いで母のおにぎりを買って戻ってから
その「志な川」さんにガラガラとおじゃましたが、
いやいや、はじめてちゃんとお会いしたと思うお子さんたちがすばらしい。

山梨の、水道も来ていない山麓部にお住まいで、
全校生徒50人しかいない小学校に通っているとのことだったが、
そのせいだろうか、塚本・木田ワインという豊かな成育環境のせいだろうか、
あんなに伸び伸びしていて、臆せず、人懐こく、
だから目の前にいる人への心遣いも示せる子どもたちには
久しぶりにお会いした。

だからもちろん、狭い客席で脚を伸ばすスペースを融通しあいながら
座卓を囲む親子4人の雰囲気も、とてもいい。

いや、いい夕べ、いい夕べ。

(ところで、山梨・一宮のルミエール(旧甲州園)のシンボル、
樹齢1200年のケヤキの木が、先日、
ちょいと吹いてきたつむじ風で、もんどりうって倒れたのだという。
なんとな。1200年の歴史の変換点に居合わせることができたことを
幸せと思うべきか。)

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by pivot_weston | 2011-07-25 05:54 | 西新宿