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十二社の雨音

人によっては、
息苦しく、不快なものかもしれないが、
わたしにとっては、
ぽつり、ぽつりと、そこらじゅうの屋根や地面に落ちる
水滴の音が集まって、
ざわざわざわと、一瞬、風にそよぐ葉叢の音かと思わせるように
どこからともなく押し寄せてくる梅雨の雨の音が
心地よい。

表の通りをひっきりなしに
路面に浮いた水を跳ね飛ばして走る車のタイヤの音も
聞こえてはいるが、
表通り沿いには、
高いマンションが壁か衝立のようにびっしりと並んでいて、
その背後の空間は、
四国の田舎のため池のほとりの、
わが家の庭の空間とたいして変わりはない。

そういえば、
土地の面影というのは、表の形相が変化しても長く残るものなのか、
この、いまでいう大都会・西新宿の十二社(じゅうにそう)にも
かつてはちょっとした池があり、
そのほとりに芸妓屋やなにかが並んでいた。

こういう梅雨の雨の日には、
今日と同じような、ざわざわざわと、葉叢を揺するような雨音のなか、
ざくざくざくと未舗装の道に食い込む下駄の音がして、
ぽんと、竹の番傘を開くこもった音などもしていたのだろうか。

そのころには、
世界やお国はいうまでもなく、
浄水場越しにはるかかなたに見えていた
新宿駅のあたりも別の世界として、
この、池のほとりの町の暮らしは進行していたのだろうか。

大人心にも、タイムマシンがほしいと思う朝のひとときだ。


by pivot_weston | 2011-06-21 07:48 | ブログ