ある光景

元日の夜、
静まり返った街を歩いていると、
薄汚れたシャッターのひとつが上がった。

こぼれ出る光。

ひとりの影が出てきて反転し、
またひとりの影が出てきて反転し、
最後に小さな影が出てきた。

最初に出てきた若い父親の影はしきりにおじぎをしている。
なかからなにか言葉が聞こえるたびに、
おじぎをしては、なにか返事をしている。

ふたり目の若い母親の影も、おじぎをしているが、
こちらは半分、最後に出てきた小さな影に気をとられている。

「ありがとう。おやすみなさい」

その小さな影が言った。
女の子の声だが、妙に滑舌がいい。

とたんに、どっと笑いのもれる気配。
実際には、人数が人数だから、
そんなに大きな笑い声がもれてくることはなかったが、
シャッターの奥で目を細めている気配が伝わってくる。

「さようなら」

小さな女の子の影は、そう言いながら、
背後のふたりの大人の影に抱かれるようにして
こぼれ出る光から遠ざかっていく。

世話になった弟子が所帯をかまえ、
毎年、正月のあいさつに来ているのか。

そんな背景が、一瞬にして頭に浮かぶ光景だった。

わたしは、そのまま行くと、
その三人とこぼれ出る光との間を突っ切るかたちになるので、
わき道に入り、迂回した。

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by pivot_weston | 2009-01-02 06:30 | 西新宿