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不思議な構図

 相変わらず不思議な現象が起きている。

 3日ほど前、アメリカの大統領夫人のミシェルさんがシカゴで目に涙を浮かべて演説をしていた。1月に旦那さんの2期目の就任式にシカゴからホワイトハウスまで来て演奏をしてくれたハイスクールのマーチングバンドの女の子が、シカゴへ戻ったあと、学校の帰りに友だちといっしょに歩いていただけで、街のギャングに敵対グループと間違われて撃ち殺された。だから、就任式のひと月あとの一般教書演説のときには、その少女のご両親を銃犯罪の被害者の代表みたいなかたちで連邦議会議事堂へ招待することになった。だから、もうこんなばかげたことはなくしましょうよ――というシカゴ育ちのミシェルさんの演説。

 ワシントンでは、相変わらず共和党が金持ち増税を認めず、予算編成が危なっかしい手間のかかるプロセスになっているが、ホワイトハウスもだからといって妥協せず、あくまで中間層の保護や雇用増につながる予算を押し通そうとしている。

 一方、日本では、政府と日銀がいっしょになって、物価を上げると言っている。先日、タクシーに乗ったら、運転手さんが「年金生活者はどうすりゃいいんだ?」と声を張り上げた。まさしく、国民年金などは、そもそも物価が多少上がろうが、下がろうが、親子同居なんてものが非現実的になりつつある現代においては、食べていけるはずのない額しか出ていない。生活保護にしても、人の生産活動の上前をはねて生きているようなマスコミの人たちは、すぐに不正受給者の話を出してきて、支給額を絞るほうに加担するが(そのわりに、不正受給者が減ったという話はあまり聞かないような気がするが)、それでは、生活保護や国民年金の受給者はみな不正をはたらいている人なのか。

 日本がシカゴでないのはなぜだろう。農村では、毎日田んぼに出てそこを耕していた人たち、都会では、商店街の八百屋さんや魚屋さんやなに屋さんが地域社会(neighborhood)を守ってきたからではないのか。そういう人たちが国民年金を納めてきた。マスコミの人や政治家がもらい、使っているようなふわふわした地に足のついていない金ではなく、わたしたちの生存に不可欠な食品の生産や、その食品のサプライチェーンの末端で顧客と向き合って得てきた金だ。大勢でグルになって集団の力学に依存するような生きかたを選ばず、ひとりひとりでこの国や地域社会を支え、守ってきた人たちだ。その人たちが、その現役としての役割を終了したあとに、月々5万円だか6万円だかの年金支給額で(どうやって暮らしているのかよくわからないが)ささやかに暮らしているときに、さあ、物価を上げるぞ、と目の色を変えて息巻く人たちの姿を見ると、なんだか浅ましく、いささか古めかしい表現になるが、「この恩知らずめ」という言葉まで頭をよぎるが、そのせいか、その姿は「日米同盟」を強調するご本人たちの弁とは裏腹に、国民が飢えているときに、さあ、ワシントンを火の海にするぞ、と息巻く北の世間知らずの三世の坊やの姿とだぶってしまう。

 ともかく、このところの世界で起こっていることは複雑怪奇。どうやら、今回の北の挑発騒動で(まあ、このまま収まればの話だが)いちばん実利を得ているのが日本ではないかと見られるところも、喜んでいいのかどうなのか。

 対岸、ならびに北の向こうからその情勢を見守る中国の新主席は、見てくれ同様おっとりした性格なのか、あまり自分からは動かないみたいだが、5月のマレーシアの総選挙で政権交代が起こり、華人系の影響力の強い政権ができれば、となりのシンガポールと合わせて、TPPにも参加せずとも間口を確保できると見ているのか、まあ、あの国にとっては内政が最大の課題ということもあって、おっとりかまえている。

 結果的に、いまわたしたちのまわりで起きている状況はマスコミの人たちが伝えるように単純なものではなく、少し大げさに言えば、日本のアメリカ化が起ころうとしているのか、日本の北朝鮮化が起ころうとしているのか、少々判断のつきかねるところもあるように思える。わたしとしては、やはり日本は日本化するのがいちばんいいと思うのだが(そうだ、消費税を上げよう。「消費税引き上げ反対」は、これまで庶民の味方をするスローガンのようにして叫ばれてきたが、あれは実は、一律5パーセントの負担ですむ金持ちを利するもの。軽減税率を導入して、あとは引き上げるのがフェアだと思う。「恩」に報いる仕組みをつくるのがいい(北の坊やの名前の一字を何度も使うのは抵抗があるのだが))。


by pivot_weston | 2013-04-13 13:58 | ブログ